公募研究8「近代文楽と写真・美術をめぐる基礎的研究」

    研究代表者 児玉竜一(早稲田大学文学学術院教授)
    研究分担者 内山美樹子(早稲田大学文学学術院名誉教授)
          小島智章(早稲田大学演劇博物館助手)
          金昭賢(早稲田大学文学学術院博士課程)
          原田眞澄(早稲田大学文学学術院博士課程)
          川口節子(目白大学短期大学部非常勤講師)
          渕田裕介(国立文楽劇場企画制作課企画制作係)
          飯島満(東京文化財研究所無形遺産部?? 音声・映像記録研究室長)
          永井美和子(早稲田大学教育学部非常勤講師)
          増野恵子(早稲田大学教育学部非常勤講師)
          大西秀紀(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター非常勤講師)

 ○研究成果概要(平成24年度)
 演劇博物館で購入した文楽小道具の絵(斎藤清二郎自筆)の全点について、画中文字の翻刻をおこなった。さらに描かれた演目を考証し、描かれた年代による事情等について検討を加えた。さらに、同年代に描かれた同種の絵、すなわり宮尾しげをによる文楽小道具の挿絵との比較検討をおこない、斎藤清二郎が独自に取材したと考えられる事例と、両者に共通する取材源が存在しうる事例とを検証した。
 以上のような調査・研究を経て、同資料は、戦前期(おそらく1930~40年代)の文楽小道具の詳細を、彩色付き、採寸付きで記録した希有な資料であることを確認することができた。文楽の舞台裏に関しての記録は、残存がきわめて少なく、また小道具については、人形遣いが片手間のような形で製作や補修を兼ねたため、専属の職掌による記録が残らないことが知られていたが、そうした記録の欠如を補うものとして、非常にユニークな資料的価値を有するものと考えられる。  
 このような成果に鑑み、この資料を広く公開することには意義があると考え、演劇博物館のホームページ上で何らかの資料公開を検討したいと企図している。ネット上にアップするための資料整備は、ほぼ終えたものと考えている。
 斎藤清二郎画のよる文楽絵はがきについては、約80点を確認し、包み紙ともども、画像をデータ化した。四つ橋文楽座における名物として知られている同絵はがきであるが、全容を検討した例は未だない。本研究でも全容を知るには至らなかったが、舞台面を描く角度など、斎藤清二郎の画法の特色について、舞台写真を参照したと思われる事例など、興味深い検討結果を得ることができた。また、同外題の舞台面を、同じような、しかし異なる、描き方をした事例もいくつかあり、年代考証がきわめて難しいことも確認できた。
 演劇博物館所蔵の文楽写真は、年代考証ができていないため、館内閲覧のデータ画面上でも、資料的価値を減じている。このための年代考証については、期限内での作業に引き続いて、今後も順次おこなう予定である。それらの結果を、演劇博物館のデータに反映させていく予定である。