公募研究2「日本記録映画の生成と興隆~受容史的視点からの考察~」
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研究代表者 奥村賢(いわき明星大学人文学部表現文化学科教授)
研究分担者 川村健一郎(立命館大学映像学部准教授)
佐崎順昭(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
濱田尚孝(日本映画大学附属図書館事務室長)
堤龍一郎(目白大学非常勤講師)
○研究成果概要(平成24年度)
【1】日本の記録映画における海外の映画・映画理論の受容
本年度は、1930年代から40年代のイギリス・ドキュメンタリー映画との関係に焦点をあて調査を進めた。日本では一般に、イギリス・ドキュメンタリーの場合、理論は紹介されたが、作品は同時代に輸入、公開されなかったとされている。しかしこれは誤りで、実際には上映され、反響もあった。この背景には、当時の資料がほとんど残存せず、その実態が不明であったからである。今回の調査では、イギリスに赴き、輸入から上映までの過程と作品内容に関する資料を探索し、不明な部分をあきらかにしようとした。結果は、駐日大使館の外交記録に日本の外務省との文化映画に関するわずかな交信記録は発見したが、詳細な記録は残されていないことが判明した。一方、当時上映された作品については、その基本データや内容の詳細を確認できる資料は確保することができた。
【2】言論界における記録映画の受容
記録映画・文化映画の専門雑誌『文化映画研究』(1938-40)『文化映画』(キネマ週報社、1938-40)『文化映画』(映画日本社、1941-43)、一般映画雑誌の『日本映画』(1936-45)『映画旬報』(1941-43)を対象に、記録映画・文化映画関係記事のデータベース化に向けての作業をおこなった。今回の作業では、単に目次のみのデータ化にとどまらず、内容を読み込んだ上で、記事の中で言及されている人名や映画作品名、製作会社や団体名、または主題などでも検索できるような画期的なデータベースの完成をめざした。しかし、関係記事の量が予想以上で、記事を読み込むのに膨大な時間をとられ、現段階で作業は終了していない。だが完成すれば、のちの映画研究に多大な寄与をする画期的なものになるであろう。
【3】社会および言論界における科学映画(科学的精神)の受容
文化映画の中軸ジャンルである科学映画を興隆させ、科学映画を広く社会に受け入れさせたのは、同時代の科学性重視の姿勢であった。そしてここで表出した科学性追求の精神は、以降も姿形を変えながらも、映画論壇における記録映画をめぐるさまざまな議論の根底に流れるひとつの潮流となり、戦後もそれは引き継がれていく。すなわち、科学映画における科学精神の解明は、言論界さらに社会における記録映画の受容の解明へと至ることになる。今回の研究調査では、戦後記録映画論争の論客であった佐々木基一や野田真吉に焦点をあて、その軌跡をあきらかにした。