テーマ研究5「日本映画、その史的社会的諸相の研究」

    研究代表者 岩本憲児(日本大学芸術学部大学院映像芸術専攻 教授)
    研究分担者 アンニ(明治学院大学言語文化研究所研究員)
          金ジョンミン(東京大学人文社会系研究科文化資源学文化経営専攻
           博士後期課程)
          古賀 太(日本大学芸術学部教授)
          蔡宜静(康寧大学 助理教授)
          志村三代子(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
          土田 環(映画専門大学大学院 助教)
          中山信子(早稲田大学ジェンダー研究所客員研究員)
          渡邉大輔(日本大学芸術学部 非常勤講師)

 ○研究成果概要(平成23年度)
 2011年度から、研究課題を「日本映画と社会:内外における受容と評価の比較研究」へ移した。
 当該年度では、時代背景を戦前戦時下において、日本映画が国内外の社会にどのように受け入れられたか、すなわち受容と評価の歴史に重点を置くこととした。特に映画が社会現象的な広がりを持ち、国境を越えて進出し、あるいはプロパガンダの一翼を担った例を具体的に検討することを目的とした。

<研究内容・計画>
 一つは外国において日本映画がどのように上映され、受け入れられていったかをいくつかの国を絞って調査する。もう一つは日本において映画がどのような評価を受け、社会的なイメージを作っていったかを作品や時代を限定して調査する。雑誌や新聞などの文章のみならず、広告や興行成績なども考慮して社会的な広がりを持つようにするのがねらいであった。

<成果概要>
 日本映画の海外進出について、主に満州事変から〈大東亜戦争〉期まで、一方では欧米への進出・紹介の跡をたどり、他方では日本がアジア諸国へ送り出した映画に焦点を当てた。この結果、欧米向けの映画紹介と、戦時下の中国・植民地化の国々での映画上映とが、それぞれどのような目的と役割を担ったのか、その相違点が浮かび上がってきた。前者では〈伝統と近代化に成功した日本〉イメージであり、後者では〈アジアの近代化に貢献する日本〉イメージである。したがって、<研究内計画>で意図した国内の調査は、個別的な映画作品よりも、民間の「国際映画新聞」および外務省系の国際文化振興会や観光局が製作・支援した短編映画群の動向に重点を置いて、日本映画の「国際性」の意味を問う一年となった。ほかに、サイレント期の映画(『十字路』)がパリで好評を得た資料の発見、韓国映画最初期の劇映画が日本とどのような関係にあったのかの再検討、日本統治下の台湾で製作された文化映画(日本国策映画の延長線上にある)の見直し、対米戦争開始後のアメリカ・プロパガンダ映画に見る日系人の表象など、各分担者からの報告がなされた。また、年度の最終研究会では、招聘講師を招いて中国華北地区での日本映画の情報を得て、共同討議を行なった。テーマ研究が終了する年度までには、総合的な研究成果を出す予定である。