公募研究10「無声映画のフィルムとテクストの対照にもとづく相互的同定研究

    研究代表者 上田学(早稲田大学演劇博物館助手)
    研究分担者 板倉史明(東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員)
          今田健太郎(大手前大学メディア芸術学部非常勤講師)
          碓井みちこ(関東学院大学文学部専任講師)
          大久保遼(東京大学大学院学際情報学府博士課程)
          土田牧子(日本学術振興会特別研究員PD)
          横田洋(大阪大学総合学術博物館助教)
                    

 ○研究成果概要(平成23年度)
 本研究は、演劇博物館が所蔵する無声映画のフィルムと、新派資料を中心とするテクストを、映画学、演劇学双方の研究者が相互的に調査研究することで、その新たな学術的位置づけを模索することにある。具体的に本研究の対象となるのは、中村歌扇出演映画、および連鎖劇に関連する新派資料である。
(A)第1回研究会において、中村歌扇が出演する映画『先代萩』(東京国立近代美術館所蔵)、および無声映画に音声を加えた「活弁トーキー版」(『元祖 大曲藝連鎖 東京江川巡業部』他)の試写を通じた調査を、東京国立近代美術館フィルムセンターで実施した。あわせて横田洋(研究分担者)による、歌扇出演の映画および連鎖劇に関する実証的な研究成果の発表がおこなわれ、研究者間で研究課題を明確にした。
(B)第2回研究会において、土田牧子(研究分担者)が演劇史における中村歌扇の位置づけに関する研究発表をおこなった。そのうえで、(A)で実施の調査成果や、横田による収集資料を用いて、中村歌扇出演が見込まれる映画『朝顔日記』(早稲田大学演劇博物館所蔵)との対照調査を実施した。また、新派の藤澤浅二郎、伊井蓉峰、井上正夫の関連資料(同所蔵)について共同調査をおこない、それらの成果の一部を企画展「日活向島と新派映画の時代展」(2011年12月~2012年3月)に反映させた。
(C)第3回研究会において、新派劇で下座音楽を担当した四代目中村兵藏旧蔵資料(早稲田大学演劇博物館所蔵)に関し、兵藏の孫で囃子方の堅田喜三代氏を招聘し、共同調査を実施した。また調査後に、新派の特質と、映像文化、とりわけ無声映画音楽との関係性について、堅田氏を交えて、映画学、演劇学双方の研究者から意見交換がおこなわれた。
(D)連鎖劇に関して、松竹キネマ等で活躍した女優、五月信子の実演資料のデータベース(計237件)を作成した。
(E)無声映画のコンテクストに関して、2010年度の公募研究で作成した、演劇博物館所蔵弁士番付データベース(計1226件)に、新たに肖像写真の静止画(計134件)を組み込んだ。