公募研究9「「鴻池幸武・武智鉄二関係資料」の公開に向けた研究・調査」

    研究代表者 児玉竜一(早稲田大学文学学術院教授))
    研究分担者 桜井弘(国立劇場調査養成部資料サービス課課長)
          坂本清恵(日本女子大学文学部教授)
          川口節子(目白大学短期大学部非常勤講師)
          渕田裕介(国立文楽劇場企画制作課企画制作係)
          内山美樹子(早稲田大学演劇博物館名誉教授)
          小島智章(早稲田大学文学学術院博士課程)
          金昭賢(早稲田大学文学学術院博士課程)
          原田真澄(早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究助手)

 ○研究成果概要(平成23年度)
 「鴻池幸武・武智鉄二関係資料」と仮に名付けた資料群を、整理・紹介することを目的として、演習形式、合宿形式などによって、資料の読解と整理を行った。
 同資料は、前年度に演劇博物館が古書肆より購入したもので、吉田幸三郎の旧蔵にかかる。
 大きく分類して、
1) 書簡類
2) 写真類
3) 草稿・目録類
4) パンフレット等
などに分けられるが、なかでも特筆されるのは、豊竹古靱太夫から鴻池幸武に宛てた書簡と、豊竹古靱太夫の旧蔵書目録である。
 本プロジェクトでは、とくに書簡の全翻刻と略注を公開することを最優先課題として、『演劇研究』誌上でこれを発表した。鴻池幸武が鴻池家をバックとした独自の立場で、古靱太夫と年齢差を離れた親密な交友をもっていたこと、その交友を通して浄瑠璃史上の様々な事象について古靱太夫に意見を糺し、古靱太夫もまたこれに答えて、みずからの蘊奥をあますところなく分かち与えている有様が、如実に読み取れる書簡群であることがわかった。これまでに、これほどまとまった数の古靱太夫書簡が一挙に紹介されたことはなく、近代文楽において最も重要な太夫である豊竹古靱太夫の伝記的側面、および学究的側面に多大な新知見をもたらすことができた。また、鴻池幸武の文章表現に、古靱太夫が添削を加えている事例もあり、演者と批評家(論者)の距離と関係を考える上でも、興味深い内容を持っていることも、あわせて確認できた。
 旧蔵書目録については、これまでまったく内容を知ることのできなかった古靱太夫の戦前の蔵書(戦災ですべて焼失)の、書目だけでもとりあえず判明する重要な資料であると判明した。ただし、さらに踏み込んで、いずれの書誌から刊行された版本であるかといったレベルまでを要求することは、現時点ではできず、分担者の一人である小島智章が研究発表を行い、概略を紹介したが、別途収集の新資料とあわせて、論文化をめざすこととなった。
 その他、パンフレット類のなかにも、初公開となる「創造劇場」パンフレットがあり、これは鴻池幸武と武智鉄二の共同演出で、武智鉄二にとっては初めての演出作品であった。これに関しても大きな新知見をもたらすことができた。