公募研究7「戦後映像文化史におけるオルタナティヴ的実践についての実証的研究― 幻灯/スライドメディアの再評価及び映画・演劇界との連携の実態の検証を中心に―」

    研究代表者 鷲谷花(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
    研究分担者 岡田秀則(独立行政法人東京国立近代美術館フィルムセンター
          主任研究員)
          紙屋牧子(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
          坂尻昌平(日本大学芸術学部非常勤講師)
          土居安子(大阪国際児童文学館主任専門員)
          Robert Tierney(イリノイ大学東アジア研究所准教授)
          安井喜雄(神戸映画資料館館長)
          吉原ゆかり(筑波大学人文社会科学研究科准教授)
          中野正昭(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
          李正旭(筑波大学人文社会科学研究科博士課程)

 ○研究成果概要(平成23年度)
 大阪国際児童文学館にて、占領期から1970年代にかけて製作された、主に学校・社会教育に関連する幻灯フィルム及び台本を2000点弱、神戸映画資料館にて1950年代から60年代にかけて製作された社会・労働運動に関連する幻灯フィルム及び台本を約300点発見し、内容の精査及びカタロギング作業を進めた。大阪国際児童文学館で発見した幻灯フィルムのうちには、東横映画『レ・ミゼラブル』の幻灯版、長谷川町子『サザエさん』のオリジナル幻灯版、神戸映画資料館で発見した幻灯フィルムのうちには、東大セツルメントこども会製作・加古里子構成『ぼくのかあちゃん』(1953)、奥多摩山村工作隊製作『山はおれたちのものだ』(1953?)、前進座製作『美女カンテメ』『憂国の詩人 屈原』(1952)など、戦後の社会運動の記録としても貴重な資料が多数含まれていることを確認した。
 神戸映画資料館所蔵幻灯資料のうち、幻灯機による上映の可能なフィルムを選定して、早稲田大学、エル・おおさか、山形国際ドキュメンタリー映画祭において上映会を開催した。山形国際ドキュメンタリー映画祭「やまがたと映画」のプログラムとして企画された「幻灯の季節2 よみがえる昭和の幻灯」(2011年10月9日)では、活動弁士片岡一郎氏による口演を得て、幻灯及び「幻灯会」の独自の魅力を国際的な場で再発見する貴重な機会となった。
 発見した幻灯フィルム資料の多くは経年劣化しており、また、可燃性フィルムも含まれていることが判明したため、デジタルデータ化を進めると共に、フィルムとしての復元・保存を試み、最良の形での保管方法の検討を進めている。2012年1月12日に早稲田大学内にて上映と研究報告会「《幻灯》に見る戦後社会運動――基地と原爆――」を開催、アナログ復元した幻灯版『原爆の図』を含む4本の幻灯フィルムを上映し、併せて文学、美術、映画など各分野の専門家4名による研究報告を行った。
 2011年度の調査・研究成果については、論文「昭和期日本における幻灯の復興―戦後社会運動のメディアとしての発展を中心に―」(鷲谷花)にまとめ、『映像学』第87号(2011年11月)に投稿・掲載された。