公募研究5「帝政期ロシア映画関連資料の多角的研究」

    研究代表者 大傍正規(早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究助手)
    研究分担者 八木君人(山形大学 日本学術振興会特別研究員PD)
          河村彩(早稲田大学教育総合科学学術院助手)

 ○研究成果概要(平成23年度)
 本研究の目的は、早稲田大学演劇博物館が所蔵する帝政期ロシアで発行された映画雑誌群と、21世紀COEが購入し、演劇博物館に移管された映像資料を共同で研究する事を通じて、「帝政期ロシアにおける初期映画興行」の全体像を明らかにすることにあった。
 まずは帝政期ロシア映画上映会(小川佐和子の解説、第1回研究会)を開催して、帝政期ロシア映画について知識の共有をはかり、その後、デジタル化した映画雑誌群の調査・分析に各自が取り組んだ。次に「基本文献リスト」を作成し(フョードロワ・アナスタシア「帝政期ロシア映画研究の基本文献リスト作成に向けて」、第2回研究会)、日本国内では所蔵機関の無かった『映画学紀要Киноведческие записки』の1-25号を入手することで、研究基盤を整備した。これらの共同研究を通じて最終的に明らかにされたのは、以下の点である。第一次世界大戦以前に世界各国の映画市場を席巻していたのは、主としてフランスのパテ社やゴーモン社が製作した喜劇映画や文芸映画であった。この二大映画ジャンルが世界各国の映画製作の礎を築いてきたことは、これまでも知られて来たが、当時の映画雑誌の残存率は極めて低く、その変容過程が詳細なデータを裏付けとして示されたことはなかった。そこで我々は、約50種と残存率の高い帝政期ロシアの映画雑誌群に掲載されている作品データを分析することで、帝政期ロシアにおいても初期フランス映画が主要な位置を占めており、それらが帝政期ロシア映画の変容に大きな役割を果たしていたことを明らかにした(帝政期ロシアで公開された初期フランス映画のタイトルや、映画雑誌『シネフォノ』(1907-8)の目次をリスト化した索引データベースを作成した)。
 さらに、大傍と河村が行ったモスクワ出張では、現地に滞在していた八木、フョードロワ・アナスタシアらと共に「ロシアにおける帝政期ロシア映画研究の現状」というテーマで、ロシアを代表する映画研究者ナターリア・ヌシーノワ全ロシア映画大学映画研究所教授にインタビューを行った。その成果は「基本文献リスト」と共に、2012年度の演劇博物館紀要『演劇研究』に投稿予定である。