公募研究1「20世紀前半期における日本の記録映画受容全史」
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研究代表者 奥村賢(いわき明星大学人文学部表現文化学科 教授)
研究分担者 川村健一郎(立命館大学映像学部 准教授)
佐崎順昭(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
濱田尚孝(日本映画大学図書館職員)
○研究成果概要(平成23年度)
日本の映画研究において、記録映画はいまだ研究調査が不十分な分野である。劇映画に勝るとも劣らない本数が生み出されてきたのにもかかわらず、体系的な研究がなかなか進展してこなかったのが実情である。本研究の目的は、学術領域において軽視されがちな記録映画に適正な照明をあてることによって、映画研究におけるこの不均衡を少しでも解消し、最終的に映画研究全体を前進させることにある。演劇映像学連携研究拠点における2010年度の共同研究では、1930年代から40年代の時期に焦点をあて、日本記録映画史における受容の流れについて調査をおこなったが、このとき受容史の全体像を把握するには、設定範囲内の考察だけではきわめて不十分であることがあきらかとなった。2011年度は時期を含め、考察対象をさらに広げ、日本における記録映画の受容について、より正確な歴史的位置づけをおこなおうとした。以下、2011年度の研究成果について略記する。
(1)1920年代ドイツの代表的映画専門誌「Film-Kurier」を中心に、ヴァルター・ルットマン関連の記事を精査し、日本とルットマンを関連させた記事が見当たらないことから、ドイツでは日本映画とルットマン作品との関係についてはほとんど知られていないことが判明した。一方で未公開フィルムの調査によって、ルットマン映画の全体的特徴は把握することができた。
(2)ドイツでのフィルム調査で、戦時中のニュース映画『日本ニュース』のタイトルバック画面は『ドイツ週間ニュース』以前のドイツのニュース映画の影響を受けていないこと、『日本ニュース』(第88号の2)に影響をあたえたと考えられる『ドイツ週間ニュース』は561号であることが確認できた。
(3)戦前から戦後にかけ映画評論の技術分野で活躍した島崎清彦の遺贈資料を調査し、彼がアマチュア映画や小型映画、映画技術史の専門的な資料を多く保存していたことを確認できたことから、記録映画製作過程における技術史の側面も検証できる可能性を見出した。
(4)、戦時中の観客動向、国策的観客動員の傾向について文献調査を進めたが、記録映画に焦点化するためには、戦前から戦後にかけての「教育映画」のあり方を検討する必要があることが判明した。