よみがえる昭和の幻灯
早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点
関連イベントのお知らせ
演劇博物館演劇映像学連携研究拠点平成23年度公募研究「戦後映像文化史におけるオルタナティヴ的実践についての実証的研究―幻灯/スライドメディアの再評価及び映画・演劇界との連携の実態の検証を中心に―」が主催するイベントが、下記の通り開催されます。
第12回山形国際ドキュメンタリー映画祭 <やまがたと映画>特集 『幻灯の季節2』
◆日程 2011年10月9日(日) 16:15-18:15
◆会場 山形美術館
※会場定員(150名)に達した場合、お席が足りなくなる場合もございます。恐れ入りますがその旨ご了承ください。
※英文資料配布・同時通訳なし
Japanese Educational Filmstrips in the 1950s
Narrated in Japanese by Ichiro Kataoka (Silent Film Benshi)
Handout in English available
◆概要
戦前期から、教育・啓蒙・宣伝・娯楽装置として活用されてきた幻灯メディア。取扱の簡単さ、フィルムに直接着色することでカラー映像を容易に実現しえたこと、35mmロール式フィルムの使用による情報量・物語性の拡大などの利点により教育関係者の注目を集め、敗戦後にはさらなる発展を遂げました。占領政策のもとで大規模な幻灯機の供給が行われると、公共施設での幻灯会ブームがもたらされ、その勢いに乗った幻灯フィルムは時には社会批判の視座を持ち、労働組合などの社会運動団体にとっても重要なメディアとなりました。この上映会は、その戦後幻灯文化の知られざる実態を解明しようとする試みです。
上映作品は、神戸映画資料館の協力により、同館に保管されていた1950年代初頭の幻灯フィルムや台本300点以上の中から選定されました。若手弁士・片岡一郎氏の巧みな話術とともに、戦後社会の空気を鋭く感じ取ることができるでしょう。
◆上映作品
1.『憂国の詩人 屈原』(1952年)
製作:前進座
出演:河原崎長十郎(屈原)/田中靖祐(宋玉)/いまむらいずみ([女単]娟)/橘小三郎(?尚)/市川祥之助(子蘭)/戸田千代子(南后)/松本染升(楚懐王)/市川岩五郎(張儀 - 秦国の丞相)/坂東秀次(釣りをする人 - 実は舞踊家)/坂東春之助(檻を見張りする衛士)/市川菊之助(鄭詹尹 -南后の父)
配給:東京スタジオ
抗日話劇の代表作のひとつである郭沫若の『屈原』(1942年)の、1952年9月の前進座による日本初演舞台を撮影・編集した幻灯版。タイトル・ロールは戦後の河原崎長十郎の当たり役の一つとなった。本作と「植民地支配への抵抗」のメッセージを共有する、同年の前進座公演『奄美大島秘史 美女カンテメ』(鈴木政男作/河原崎国太郎主演)も幻灯化されている。
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2.『みどりの平和』(1953年)
企画・製作:社団法人農山漁村文化協会
後援:農林省林野庁・文部省・宮城県
撮影の場所:宮城県栗原郡富野村
出演:富野村の人たち
原作:富野中学校緑化クラブ
脚色:白浜研一郎
演出:山田民雄
撮影:島三男夫
製作:浮田左武郎
戦時中の山林の荒廃のもたらす水害から村を守るために、旧時代の境界権や入会権のしがらみを越えて、植林運動に取り組む宮城県富野村の中学生たちの奮闘を、実話に基づきつつ、本人出演・現地ロケで幻灯化した作品。企画・製作は、幻灯版『山びこ学校』と同じく農山漁村文化協会(農文協)。農文協は、占領期以来、農山漁村向けの教化啓蒙や娯楽のための幻灯作品を多数製作していた。
3.『山はおれたちのものだ』(1954年頃)
製作:奥多摩山村工作隊
配給:日本幻灯文化社
1951年から55年にかけ、小河内ダムの建設阻止と、封建地主の支配からの山村解放のため、日本共産党より西多摩の山村に送り込まれた奥多摩山村工作隊製作の教宣幻灯。山村工作隊が実施した山村労働者向けの文化工作の実態を伝える貴重な現物資料である。台本・フィルム共に製作年は明記されていないが、フィルムの製造番号からは1954年頃の製作と考えられる。
4.『ぼくのかあちゃん』(1953年)
製作:東大セツルメント川崎こども会
構成:加古里子
協力・配給:日本幻灯文化社
今日まで日本を代表する絵本作家・児童文学者として活躍を続けている加古里子(ルビ:かこさとし)は、1951年から東大セツルメント川崎こども会の運営に参画し、会に集まる地域の子どもたちに向けた紙芝居及び幻灯の創作活動にも取り組んでいた。低学齢児による児童画を髣髴とさせる画面と、生活綴り方に基づく台本を組み合わせた本作品は、子どもたちとの集団製作のユニークな実践例といえる。
5.『われらかく斗う 激斗63日』(1953年)
製作:日本炭鉱労働組合
配給:日本幻灯文化社
協力:古河好間炭鉱労組/岩波書店写真部/国際写真通信社
1952年10月17日に始まる日本炭鉱労働組合(炭労)主導の63日間のストライキを、福島常磐炭鉱及び九州嘉穂炭鉱の闘争に焦点をおいて総括する、全編で90コマに近い長大な幻灯作品。配給元の日本幻灯文化協会が発行したパンフレット「労働組合の幻灯運動」(1959年)によると、本作は好評により千本以上プリントされ、1950年代の労働組合による幻灯自主製作ブームの嚆矢となったとされる。
◆片岡一郎(活動写真弁士)
1977年東京生まれ。2001年に日本大学芸術学部演劇学科を卒業、2002年澤登翠に入門。口演作品は洋・邦・アニメ・記録映画と守備範囲は広い。さらに中国の無声映画に独自の境地を開く。2007年と2009年のクロアチア公演、2008年のドイツ公演にて好評を博す。バイオリン演歌の指導を福岡詩二、紙芝居を秋山呆栄より受ける。国内外での公演のほか、執筆や舞台出演、声優業なども手掛けている。