<2011年度第2回 研究報告会のお知らせ>
――戦前日本映画の対外工作と宣伝――
早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点
研究報告会のお知らせ
演劇博物館演劇映像学連携研究拠点テーマ研究「日本映画、その史的社会的諸相の研究」が主催する研究報告会が、下記の通り開催されます。
2011年度第2回研究報告会「戦前日本映画の対外工作と宣伝」
日時:7月23日(土)、13:30-17:30
場所:早稲田大学キャンパス8号館404教室
主催: 早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点テーマ研究「日本映画、その史的社会的諸相の研究」(研究代表者:岩本憲児)
報告者および題目:(全体時間の前半は報告1~3、後半は報告4および参考上映)
1 金チョンミン(東京大学院人文社会研究科博士課程)
「ナショナル・シネマを問う:京城日報社『愛の極み』1922 をめぐって」
日本の植民地下にあった朝鮮での映画製作は、1920年4月総督府に設置された活動写
真班によって開始された。映画が持つ宣伝効果を利用し、政策理念を普及しようと、
総督府の機関紙であった『京城日報』も映画事業に積極的に関わり、1922年4月『愛
の極み』を発表する。この映画は、日本人の貧しい青年画家が朝鮮新聞社の令嬢(朝
鮮人)と結ばれる筋であり、「内鮮融和」の理念を追求している。『愛の極み』が朝
鮮で製作された初の劇映画であることにはほぼ間違いない。ところがこの映画に朝鮮
人が関わった記録はなく、「民族映画」としてみなすことは不十分である。そうなら
ばこの映画は日本映画として分類されるべきなのか?これまで研究されなかった京城
日報社の映画製作を通して、ナショナル・シネマの成立について検討したい。
2 渡邊大輔(日本大学芸術学部非常勤講師)
「『国際映画新聞』及び市川彩の言説における「国際性」」
昭和初年から戦中期にかけて刊行されていた映画業界誌『国際映画新聞』における刊
行者・市川彩の言説群について検討する。同誌は、日本における映画ジャーナリズム
が確立され始めた時期に登場した、日本最初の本格的な「映画業界誌」であり、製
作・配給・興行など他方面に向けた記事が掲載されており、とりわけ映画館経営に関
するジャーナリズムに力を入れていた点が特筆されるが、他方で、その題名に「国
際」の文字を冠し、後に市川が『アジア映画の創造及建設』(1941年)という著作を
残していることからも窺われるように、同誌(そして市川)は、当時の映画国策の流
れとも連なりながら、国内外の映画を通じた文化的・政治的交流に関する言説を発信
していた。本発表では、そうした同誌と市川をめぐる言説の「国際性」の内実がどの
ようなものだったのかを概観的に示したい。
3 岩本憲児(日本大学芸術学部教授)
「Cinema Year Book of Japan 1936-39 : 刊行の背景と意図を探る」
戦前に刊行された英語版の「日本映画年鑑」は3冊あり、ロシア語版が1冊ある。とくに1938-39年の英語版を発行した国際文化振興会は、満州事変、偽満州建国、リットン報告、国際連
盟脱退などで孤立した日本が対外文化宣伝を発信する場所でもあった。また、ロシア
語版は国際文化振興会とは別に、南満州鉄道株式会社から岡田桑三が中心となって刊
行された。英語版刊行の背景と意図を探るとともに、ロシア語版の背景と意図、英語
版との比較なども行う。
4 蔡宜静(台湾、康寧大学応用日本語学科助理教授)
「軍国映画『南進台湾』に見る映像をめぐって」
2003年、台湾南部の嘉義で日本統治時代に輸入されたフィルム群が発見された。破損
も少なくなかったため、国立台南芸術大学映像学科にその修復が委託された。現在、
修復を終えた計175巻のフィルムが国立台湾歴史博物館に保管されている。同館が所
蔵する具体的なフィルム・リストは、同館のインターネット上にもアップデートされ
ているため、そちらを参照されたい。今回取り上げるDVD版『南進台湾』は、日本で
企画されたうえ、主として日本で製作されたものと考えられ、保存状態も比較的良好
である。また、同館では修復を済ませたものをDVDに収録し、『片格転動間的台湾顕
影』というタイトルで一般的に民衆向けに販売している。これらを今回、とくにこの
映像について考察する理由は、映像資料に加え「准演執照」と題する紙本素材(テキ
スト)も発見されていて、映像内容の確認が比較的容易だからである。この「准演執
照」をも参照しつつ、個々の映像をつぶさに見てゆくと、日増しに軍国主義化を深め
つつあった時代における映像上の特色が比較的容易に看取されるのではないかと考え
られる。
今回は『南進台湾』の映像を主としつつ、「准演執照」に文書化された内容と照らし
合わせ、いわば映像と文字との両面から、戦前期映像文化における台湾のイメージを
見てゆきたい。そのうえで、映像の特徴について一歩踏み込んだ形で整理し、台湾総
督府がこのフィルムをいかに編成したうえでいわゆる「台湾皇民化」に利用したか、
とりわけ「南進」への思惑を人々へより無理のない形で鼓吹しようとしたか、につい
て考えてみたい。
DVDに収録された下記の映画から、いずれかを参考映写。
≪日本国策記録映画≫
①「南進台湾」(約64分)
②「台南州 国民道場」(約10分)
③「台湾勤行報国青年隊」(約10分)
④「幸福の農民」(無声/約28分)
問合せ:早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点事務局
TEL 03-5286-8515
E-MAIL kyodo-enpaku_atmark_list.waseda.jp ※_atmark_は@に変えて送信して下さい