公募研究11「伎楽面の総合的研究及び復元模刻制作」
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研究代表者 籔内佐斗司(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室教授)
研究分担者 仲裕次郎(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室非常勤講師)
益田芳樹(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室非常勤講師)
小沼祥子(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室教育研究助手)
藤曲隆哉(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室博士課程1年)
○研究成果概要(平成22年度)
今回の研究においては、東大寺蔵・伎楽面「酔胡王」の総合的調査を行っただけでなく、当時と同じ材料、技法にて実際に当初の姿を再現したことに大きな意味を持つ。調査で導き出した推論が、制作という実技を通じて確信へと変わることこそが、本研究のテーマである総合的研究の本質であると我々は考えている。
今回調査においては、通常の熟覧調査だけでなく、形状をデジタル化して記録する3Dレーザー計測、顔料を推定する蛍光X線分析、矧ぎ目等構造を映し出すX線撮影等の光学的調査を行った。その結果、既往研究では知り得ない貴重な情報を収集することが可能になり、本研究の基礎資料として大いに役立つ結果となった。
良質の桐の丸太をX線撮影によってわかった木目等の情報に照らし合わせ、また3Dレーザー計測によって得られた図面を用いて、実際に彫り進めた。デジタルデータから法量算出や断面図など必要に応じた寸法や図を用いることで効率良く彫刻作業を進めることが可能になった。また実物では欠損している部分については、今回当初復元を目指すこともあって、形状を復元した状態で彫った。
彫刻作業の後、全体に錆漆を施し、白土を塗り、その上に顔料を塗っていくわけだが、今回行った蛍光X線分析で、ある程度使用された顔料が推定できたが、模様などの形については赤外線写真からもはっきりした形を見出すことができず、目視できる部分を基本とし、天平時代の他作例模様を参考に想定復元を行った。
今までにも復元した伎楽面の事例は多く見られるものの、本研究のようにレーザー計測、X線撮影、蛍光X線分析、赤外線写真といった多岐にわたる総合調査を行って当初復元を目指した伎楽面は稀有といっても過言ではなく、今後の伎楽面調査・模刻におけるひとつのケーススタディとしてもたいへん貴重である。また今後他伎楽面を同様手法で調査・模刻を行うことで、研究手法を一段と確立していくことも必要である。