公募研究10「メイエルホリドと越境の20世紀」

    研究代表者 上田洋子(早稲田大学演劇博物館助手)
    研究分担者 マリヤ・マリコワ(ロシア科学アカデミーロシア文学研究所ロシア外国文学相互関係部門上級研究員)
          マリーナ・コレネワ(ロシア科学アカデミーロシア文学研究所ロシア外国文学相互関係部門上級研究員)
          藤井慎太郎(早稲田大学文学学術院教授) 
          楯岡求美(神戸大学大学院国際文化学研究科准教授)
          伊藤愉(一橋大学大学院言語社会研究科博士課程) 
          内田健介(千葉大学大学院人文社会学研究科博士課程)
                    

 ○研究成果概要(平成22年度)
 本研究は演劇人フセヴォロド・メイエルホリド(1874-1940)の創作を、20世紀初頭の芸術における世界文化の交差と結合の観点から考察するものである。研究分担者にロシア科学アカデミー文学研究所比較文学部門からマリヤ・マリコワ、マリーナ・コレネワの二人の研究者を迎え、メイエルホリドにおける越境の問題を多方向の視点から考察することを目指した。演博資料の調査、およびロシアにおけるアーカイヴ調査・ヒアリング調査を行い、また合計5回の研究会と、2日間の国際シンポジウムを開催して意見交換と成果発表の場を持った。
2010年6月に研究代表者の上田がモスクワとサンクトペテルブルグに出張し、分担者のマリコワ、コレネワ両氏と研究打ち合わせを行い、その協力を得つつ、サンクトペテルブルグ演劇博物館、公立図書館などで資料調査を行った。さらに、ビオメハニカを実践する演出家たちにインタビュー形式の聞き取り調査を実施した。調査結果は研究会で報告した。演博の資料調査としては、野崎韶夫旧蔵未整理資料6箱を調査、そのうちのパンフレット類は演博データベースの海外演劇情報上演資料データベースの構築と連動して整理を行った。そのなかでメイエルホリド劇場の新たなパンフレットなども発見された。また、二世市川左團次のソヴィエト公演貼り込み帳の調査を進め、研究分担者マリコワをはじめとする海外の研究者に紹介し、資料の価値を確認するとともに、この資料を今後いかに研究していくべきか議論を持った。

今年度最大の成果は2010年12月17・18日に開催した国際シンポジウムで、本研究会のメンバーのほか、大阪大学の永田靖氏ら計6人の研究者が講演・発表を行い、司会の谷川道子氏、コメンテーターの鴻英良氏らを交えて活発な議論と意見交換がなされた。このシンポジウムでブレヒトや日本演劇との関係、および音楽や美術とのジャンル交流に関しても「越境」がメイエルホリド研究の一つの重要なキーワードであることが再確認された。その後、記録音源を文字に起しており、現在体裁を整えて拠点ホームページにアップロードする準備を進めている。