公募研究9「点在する演劇-映像関連資料の体系的把握を通じたトータルな資料体の構築及びそれに基づく演劇史-映像史の交錯に関する研究」
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研究代表者 吉原ゆかり(筑波大学人文社会科学研究科准教授)
研究分担者 岡田秀則(東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員)
坂尻昌平(日本大学芸術学部非常勤講師)
洪善英(翰林大学日本学研究所専任研究員)
土居安子(財団法人大阪国際児童文学館主任専門員(非常勤))
○研究成果概要(平成22年度)
大阪国際児童文学館(府立中央図書館内)、神戸映画資料館、エル・ライブラリー(旧大阪産業労働資料館)、京都府京都文化博物館、東映資料室、三重県立図書館等、主に関西の演劇・映像関連資料を所蔵しているアーカイヴスにおける調査を複数回実施した。その結果として、占領期から1970年代頃にかけて製作され、学校および社会における視聴覚教育や、児童運動・労働運動等の場で使用された幻灯/スライドのフィルム及び台本多数をはじめとする未整理・未公開資料の所蔵を確認した。これらの幻灯/スライド資料は、占領期以降の映像を用いた社会教育運動の資料として貴重であるのみならず、たとえば『レ・ミゼラブル』(前後篇、伊藤大輔/マキノ正博監督、東横映画、1950)ほか、現在完全なフィルムの所在が確認されていない映画作品の幻灯版、前進座、人形劇団プーク等の舞台公演の幻灯版などが含まれており、演劇・映画資料としても貴重な価値をもつものと考えられる。発見した幻灯/スライド資料に関しては、内容の調査を行い、一部を目録化した。
存命の映画・演劇関係者の協力によるオーラル・ヒストリーの収集という目的に関しては、旧松竹撮影所にて、主に助監督・シナリオライターとして活躍した熊谷勲氏に二回の聞き取り調査を実施した。インタヴューは渋谷実監督、森崎東監督をはじめ、氏の参加された映画作品をビデオモニターで視聴しつつ進行し、現場での具体的な演出やスタッフワークの実態を克明に思い起こしていただくことを試みた。その結果、昭和30年代から40年代にかけての撮影所内の映画作りの実情や労働運動に関する貴重な証言の数々を得ることができた。
2010年6月14日及び12月27日に早稲田大学内にて研究成果報告会を開催した。さらに、2011年2月12日にソウル・漢陽女子大学にて開催された第82回韓国日本学会学術大会に、李正旭、紙屋牧子、鷲谷花の研究協力者3名が参加し、関西での資料調査の成果の一部を発表した。また、これに関連して、ソウル市内および東京都内のアーカイヴスにおける、主に植民地時代を中心とする演劇・映像資料の所蔵状況に関する調査をおこなった。