公募研究7「人形浄瑠璃の復元上演に関する資料学的研究―淡路人形座を実践例として―」
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研究代表者 神津武男(早稲田大学高等研究所研究員)
研究分担者 久堀裕朗(大阪市立大学文学研究科准教授)
正井良徳(南あわじ市淡路人形浄瑠璃資料館館長)
松下師一(松茂町歴史民俗資料館人形浄瑠璃芝居資料館主任学芸員)
○研究成果概要(平成22年度)
【研究目的】人形浄瑠璃の伝承団体は日本各地に散在する。江戸時代最大の流派は、浄瑠璃は義太夫節で、人形操りは三人遣いによるもので、その専業者(いわゆるプロ)の後継団体は現在ふたつ。ひとつは「人形浄瑠璃文楽」で、中央/大都市を活動の拠点とした系統、もうひとつは「淡路人形座」で、中央以外の日本全国を巡業した系統、の後継である。本研究課題では、淡路人形座との提携によって、演技伝承を失った作品について、現存諸資料を学術的に活用して、演技伝承の復元・復活を試みようとするものである。
【研究方法】近年文楽とその周辺での復元・復活は、内実は「何十年ぶりの久しぶりの再演」や、復元・復活の具体的な作業を演技者に一任する例が多い。国立劇場でも、能楽や歌舞伎での研究者との連携は珍しくないが、人形浄瑠璃では研究と上演の現場が正面から協力し合った復元上演は無い。本研究課題では、復元上演に際して「上演前の現存諸資料の踏査」「諸資料の検証研究に基づく台本作成」「演技者との連携による舞台の創造」といった当たり前の作業を行ない、人形浄瑠璃における復元上演の「手本」典型を示すことを試みる。
【研究成果】「淡路座独自の演目」の最大の資料は、早稲田大学演劇博物館が1970年に豊澤町太郎師に委嘱して作成した録音である。今年度の事業では、2011年2月20日上演『奥州秀衡有?壻』二段目ノ口「鞍馬山」がこれに該当する。演劇博物館の保存・記録の活動が、40年の時を経て、後進の淡路人形座へと再び還されることは、何より望ましい姿だと考える。
研究分担者各自の成果としては、久堀裕朗氏による淡路座旧蔵台本の調査研究によって、淡路座の独自本文を見出し得たこと(『仮名手本忠臣蔵』五段目)。正井良徳氏の聞書によって、昭和前半期の市村六之丞劇場の興行のあり方が判明したこと。松下師一氏の協力により徳島県に所在する、淡路系のタンゼン(文楽でいうツメ)の良品を見出し、これを模刻、「鞍馬山」復活上演に使用し得たこと、を挙げたい。
竹本駒之助師の六十年ぶりという里帰りを実現したこと、また駒之助師より淡路人形座の活動に関する今後も協力くださることをお申し出いただいた。関係者各位の連携を取り結び得たことが、研究代表者としての最大の成果かと考える。