公募研究6「全体主義下における演劇・映像を中心としたマスカルチャーとメディアの総合的研究」

    研究代表者 貝澤哉(早稲田大学文学学術院教授)
    研究分担者 石田美紀(新潟大学・人文学部・准教授)
          志村三代子(早稲田大学演劇博物館・招聘研究員)
          竹峰義和(日本大学法学部・助教)
          西岡あかね(東京外国語大学・外国語学部・専任講師)
          森平崇文(早稲田大学演劇博物館・招聘研究員)

 ○研究成果概要(平成22年度)
 本研究の目的は、全体主義文化において国民を総動員し組織化するマスカルチャー・メディアを横断的に検討することであった。この目的達成のため、二回の研究会と表象文化論学会でのパネルによる研究成果発表をおこなった。研究会は他の学会との共同開催とし、多様な研究者間の相互交流や積極的な意見交換も目標とした。
第一回研究会(日本映像学会テクスト研究会と共催)では、竹峰義和が「西部からの呼び声:ナチス政権下のルイス・トレンカー監督作におけるアメリカ表象」を発表し、ナチズム期のドイツ娯楽映画における西部劇のイミテーションの問題をとおして、全体主義文化とアメリカ大衆文化との関係を明らかにした。発表は日本映像学会員からも高く評価され、発表後活発な意見交換もなされ、高い成果をあげた。
第二回研究会(新潟大人文学部研究プロジェクト「文化史・文化理論の再構築」と共催)では、イタリア映画専門家石田美紀によるファシズム期イタリア映画、比較文学者猪俣賢司氏による、戦後日本映画における戦時中の表象の継続に関するレクチャーのほか、森平崇文が毛沢東時代の中国における「雑技」の国家管理化について、志村三代子が勤労動員映画、黒澤明の『一番美しく』における身体表象の問題について発表した。石田氏の発表は、専門家の少ないイタリア・ファシズム期映画とハリウッド大衆映画技法との関連を示唆し、また猪俣氏の発表は、テクストの精緻な読解にもとづき、戦前と戦後の映画表象の連続性を浮き彫りにする高度なもので、研究上の通説を更新する大きな成果となった。

表象文化論学会第五回研究発表集会(2010年11月13日)では、森平、志村に、日本映画研究者劉文兵氏を加えたパネル「動員される身体:日本と中国」をたて、毛沢東期中国と戦前・戦後日本の映画における、動員される者たちの身体表象について多角的に検討した。森平による新資料を使った大衆芸能の組織化の研究や、志村による戦時期日本映画の女性表象の特性の指摘は、先行研究が不十分だった面を明らかにするもので、聴衆から高く評価された。また貝澤哉は、2011年1月22日東京外語大主催の国際シンポジウム「自由への試練:ポスト・スターリン時代の《抵抗》と《想像力》」にパネリストとして招聘され、発表「液状化するスクリーン:雪解け期のソ連《ヌーヴェルヴァーグ》映画」をおこなって本研究の成果を広く一般聴衆に発表した。