公募研究4「河竹黙阿弥の台本・正本写研究」

    研究代表者 今岡謙太郎(武蔵野美術大学教授)
    研究分担者 岩井眞實(福岡福岡女学院大学表現学科教授)
          埋忠美沙(早稲田大学演劇博物館客員研究員)
          倉橋正恵(同志社女子大学文学部非常勤講師)
          寺田志麻(早稲田大学オープン教育センター非常勤講師)

 ○研究成果概要(平成22年度)
本研究の目的は、河竹黙阿弥の台本(写本・『黙阿弥全集』)と正本写の特徴の再検討と、両資料の比較による作品研究である。従来の黙阿弥研究では、『黙阿弥全集』が基本資料として用いられてきたが、その内容に不明な点が多い。黙阿弥の生誕200年を五年後に控えた今、黙阿弥研究のさらなる発展を促すために、資料の再検討を開始した。そのうえで、正本写を活用した作品分析をおこない、作品研究の新たな手法の確立を目指すものである。具体的な研究手法は以下の通り。
1、?????? 台本(写本・『黙阿弥全集』)と正本写の網羅的な調査・分析をおこなう。
2、????? 1の結果を踏まえ、二つの手法で作品研究をおこなう。第一に典拠を調査し、黙阿弥の作劇法を詳らかにする。第二に正本写(歌舞伎を題材にした合巻)を活用し、写本・役者絵・番付等と照合し、物語と演出が変化する具体例を検証する。
3、????? 主要な作品(台本・正本写)の翻刻をおこない、広く公開する。
具体的には、以下7作について、資料の調査・分析と作品研究をおこなった。
河竹黙阿弥作:「青砥稿花紅彩画」(文久2年)、「契情曽我廓亀鑑」(慶応3年)、「隅田川鶯音曽我」(慶応4年)、「明治年間東日記」(明治8年)、「英国孝子伝」(明治20年)
瀬川如皐作:「蟒於由曙評仇討」(慶応2年)、「近世開港魁」(明治7年)
このうち、「蟒於由曙評仇討」の台本と、「青砥稿花紅彩画」および「契情曽我廓亀鑑」の正本写の翻刻を行った。成果は、国立劇場調査養成部刊『未翻刻戯曲集』と『正本写合巻集』に反映させた。

各作品について詳細が明らかになったが、具体例として「青砥稿花紅彩画」(白浪五人男)の調査結果を述べる。従来、本作の初演台本は現存せず、『黙阿弥全集』が現行の上演台本に近い内容といわれていたが、演劇博物館所蔵の写本が初演系台本であることと、現行上演では『黙阿弥全集』よりも初演系写本に近い台本が利用されていることを明らかにした。さらに作品研究の結果、黙阿弥が歌舞伎・浄瑠璃の先行作よりも、実録に基づいて物語を作っていることを詳らかにした。また正本写が初演に忠実な資料で、役者絵との比較により、演出の変化を読み解けることを明らにした。