公募研究3「明治・大正期の歌舞伎狂言作者および興行関係資料の研究」

    研究代表者 佐藤かつら(鶴見大学文学部准教授)
    研究分担者 神田由築(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授)
          中村緑(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究博士課程)
          磯部孝明(総合研究大学院大学文化科学研究科日本歴史研究専攻博士後期課程)

 ○研究成果概要(平成22年度)
 本研究は、2009年度に共同研究「狂言作者竹柴其水興行関係資料の基礎的研究と翻刻作業」により行われた、狂言作者竹柴其水(1847~1923)の関係資料(ロ30-1473-1~109)についての調査をふまえ、新たに確認された其水関連資料(ロ30-1188-1~219)をも用いて、いまだ詳細が明らかではない河竹黙阿弥以後の狂言作者の実態や、役者と狂言とのかかわり、同時期の興行の様相などを幅広く追究することを目的としたものである。
本年度においては、四回の研究会を開き、資料の内容を検討し、分析を進めた。これにより得られた主な成果は、以下の二点である。
(1)ロ30-1188-1~219の資料群の検討により、同資料群には番付下絵・舞台図や、引札、書簡、摺物、看病日記など、種々の資料が混在していることがわかった。なかでも「時代物登場人物ニ付考証一括」(006)や「〔山田長政関係書類〕」(026)、「〔近藤重蔵関係資料〕」(029)は、其水が作劇にあたり参照したものと思われる(明治32年1月明治座上演「山田長政誉軍扇」、26年3月市村座上演「山開目黒新富士」・35年6月明治座上演「日本晴露領雪解」)。本年度の調査により、狂言作者の用いる情報や、その情報の使い方といった、本資料による分析・研究への端緒が開かれたと考える。
(2)ロ30-1473-1~109の資料群から、木村涼氏(研究協力者)により『芝居書付』(ロ30-1473-59)の分析・検討がなされた。同資料は江戸三芝居の猿若町移転前後のもので、今村益之丞という武士が芝居茶屋に支払った代金の領収書の綴りである可能性が高いこと、桟敷代・土間代・飲食費の詳細、芝居茶屋利用には桟敷・土間・敷物代のほか弁当・すしなど定番のコースがあること、その料金は一回一両前後であることなど、芝居茶屋を利用しての観劇の具体相が判明し、観客研究に資する重要な資料であることが明らかになった。

 

以上、本年度においては、資料の内容の調査と分析から、主に狂言作者の研究に関する今後への展望を開くとともに、幕末明治期の興行の様相にかかわる具体的な観客の姿の解明を行った。