公募研究2「仮面舞チャムの儀礼世界の研究―チベット文化圏と日本における仏教儀礼/芸能の比較から―」

    研究代表者 木村理子(東京大学教養学部非常勤講師)
    研究分担者 高橋悠介(神奈川県立金沢文庫学芸員)
          額尓敦白音(エルデネバヤル)(中国内蒙古大学蒙古学学院・教授)

 ○研究成果概要(平成22年度)
 本研究では、チベット仏教仮面舞チャムの調査と記録を行い、仮面舞踏としてのみ見られがちなチャムを、密教儀礼として分析し、チャムの儀礼世界をチベット密教の中に位置づけた上で、日本中世の密教における忿怒相の明王の修法や魔を払う儀礼との比較考察を試みた次第である。チベット密教の忿怒尊の修法を日本中世の密教修法と比較研究することによって、両者の類似性と差異を明確に把握し、アジア仏教圏に展開した宗教芸能の儀礼世界とその背景を考えることが本研究の目的である。そのため、密教儀礼という観点からのチャム研究においては、木村と高橋が、インド北部・ラダックのニンマ派寺院タクトク寺のチャムを調査し、木村がその調査結果をとりまとめた。その他、木村はモンゴルにて忿怒尊修法の調査を行った。額尓敦白音は蒙藏文献中の忿怒尊修法に関する調査を担当、高橋は日本の鎌倉時代の調伏法や忿怒相の明王に関する文献の調査・分析を担当し、三者によって比較研究を行うことで、アジア仏教圏に展開した宗教芸能の儀礼世界の探求を試みた。
一、チャムの調査
(1)インド・ラダック調査
2010年7月、インド北部ラダック・タクトク寺においてチャムの調査を行い、フィールドノートに基づき、詳細な式次第を作成した他、チャムの準備段階から終了後の法会までの全行程の撮影を行った。これにより、中国領チベットから伝授されたラダック唯一のニンマ派のチャムに関する研究・分析のための一次資料を作成することができた。なお、撮影映像資料(複写)を拠点事務局に寄贈した。
(2)モンゴル調査
2010年9月、モンゴル国ダシチョイリン寺並びにガンダン寺忿怒尊祀堂において、チャムの忿怒尊修法で用いるリャンガ(人形)の調査を実施し、これまで明らかにできなかったリャンガの製法とその特徴を明確化することができ、日本の密教儀礼における人形との比較が可能となった。
二、日本の密教儀礼の調査
2010年11月、奈良秋篠寺並びに金峯山寺において、チベット仏教圏の忿怒尊と類似性を有する忿怒形の本尊の実見調査を行った。
三、研究会

2011年1月、公開研究会において、ラダック・タクトク寺の調査やモンゴルでの調査に基づきチャムの分析を行った上で、チャムで執り行われる密教修法と日本中世の密教修法について人形に焦点を当てた比較考察を行い、チャム研究者と日本芸能研究者で意見交換を行った。