公開シンポジウム「メイエルホリドと越境の20世紀」
早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点
公募研究「メイエルホリドと越境の20世紀」(研究代表者:上田洋子)
公開シンポジウムのお知らせ
日時 2010年12月17(金)15:30-・18日(土)13:30-
場所 早稲田大学 6号館318教室(17日)
早稲田大学 8号館403教室(18日)
概要
モダニズムとアヴァンギャルドの時代を通して演劇の改革を行い続けたメイエルホリドの創作はさまざまな「越境」の問題を包含している。時代・文化・ジャンルを越境しながら演劇の実験と応用を繰り返したメイエルホリドの創作を検討しつつ、20世紀という時代を考察してみたい。
テーマと参加者
17日 メイエルホリドとベンヤミン
鴻英良(講演)・マリヤ・マリコワ(講演)
桑野隆(コメンテーター)・谷川道子(司会・コメンテーター)
18日 文化とジャンルの越境――メイエルホリドの試み
永田靖(講演)・ヴィオレッタ・ブラジニコワ(発表)
伊藤愉(発表)・上田洋子(発表・司会)
鴻英良(コメンテーター)・マリヤ・マリコワ(コメンテーター)
主催 早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点公募研究
「メイエルホリドと越境の20世紀」(研究代表者:上田洋子)
【入場無料・予約不要】
プログラム
12月17日(金)「メイエルホリドとベンヤミン」
早稲田大学6号館3階318教室(レクチャールーム)
司会: 谷川道子(東京外国語大学名誉教授)
15:30 講演 鴻英良(演劇批評家)
「メイエルホリドとベンヤミン Мейерхольд и Вальтер Беньямин」(日本語)
16:30 谷川によるコメント
16:50 討議
17:20 休憩
17:30 講演 マリヤ・マリコワ(ロシア科学アカデミー文学研究所プーシキン館上級研究員)「ヴァルター・ベンヤミンの見たメイエルホリドの『検察官』
"Ревизор" Мейерхольда глазами Вальтера Беньямина」(ロシア語、通訳付)
18:45 桑野隆(早稲田大学教授)によるコメント
19:00 谷川によるコメント
19:15 討論
20:00 終了
12月18日(土)「文化とジャンルの越境――メイエルホリドの試み」
早稲田大学 8号館403教室
司会: 上田洋子(早稲田大学演劇博物館助手)
第一部
13:30 講演 永田靖(大阪大学教授)
「メイエルホリドと世界演劇 Театр Мейерхольда в мировом контексте」(日本語、通訳付)
14:40 発表 ヴィオレッタ・ブラジニコワ(マドリード・カルロス第三大学/早稲田大学) 「Элементы сценографии театра Кабуки в русско-советской театральной пластике в первые декады ХХ века 20世紀初頭ロシア・ソヴィエト演劇の身体表現における歌舞伎的舞台構成の要素」(ロシア語)
15:20 鴻によるコメントおよび討論(通訳付)
16:05 休憩
第二部
16:20 発表 上田洋子
「Мейерхольд и театральный конструктивизм メイエルホリドと演劇の構成主義」
ロシア語
17:00 発表 伊藤愉(一橋大学)
「Музыкальная композиция и актерская игра в Театре имени Мейерхольда メイエルホリド劇場における音楽的コンポジションと俳優の演技」(ロシア語)
17:40 マリコワによるコメントおよび討論(通訳付)
18:30 終了
* ロシア語による発表は日本語原稿あるいはレジュメを配布、コメント・討論は日露二カ国語で実施
通訳: 中川エレーナ、斎藤慶子
講演・発表要旨
■鴻英良「メイエルホリドとベンヤミン」
私はいま、近代演劇が、ブルジョアジーの勃興、あるいはモダニティの展開とどのように関連しつつ、推移してきたのか、それらの関連、もしくは錯綜の
中で、はたして近代演劇は世界の新たな状況に対して独自のヴィジョンを提示できていたのかなどにについて検討してみたいと思っている。前近代的な神話的秩序の崩壊のあとで、近代は、まさにその崩壊によって、精神的な危機に直面し続けることになったのだが、その危機なかで近代世界の芸術家たちは、自らの近代性の意味を問いつつ、自らの不安定な主体をポジショニングしようと、不可能の努力をしてきたのである。ほとんどが挫折に終わったそうした試みの数々こそ、人間の革命的な行動の支柱であったのだが、それゆえ、そうした支柱を表現活動の中で実践してきた人は、じつはたくさんいたのである。この報告では、そのうちのふたり、ベンヤミンとメイエルホリドに焦点を当て、演劇的な現場における二十世紀の前半の人間の活動の偉大さと歴史的な事実としてのその活動の挫折の意味について検討してみたい。とはいえ、私の話は、この二人の偉大な芸術家・思想家の活動がわれわれにどのような可能性を示唆しているのか、グローバル化された社会で疲弊している今日の知識人たちへの批判的提言にもなることをもくろんでいる。
■マリヤ・マリコワ「ヴァルター・ベンヤミンの見たメイエルホリドの『検察官』」
ドイツの哲学者ワルター・ベンヤミンが、メイエルホリドの『検察官』とこの
芝居に関する討論をどう受け止めたのかを二つのコンテクストにおいて考察する。ひとつは、ベルトルート・ブレヒトの思想と同じ方向性にある、政治的機能を果たす新たな手段としての新しいプロレタリア芸術に関するベンヤミンのイメージの反映(1927年の覚書『メイエルホリ
ドの論争』)。もうひとつは
「商品の交響楽」というアレゴリー的イメージへの哲学的感心のコンテクストで、主著『パッサージュ論』において展開されることになるものである。
■永田靖「メイエルホリドと世界演劇」
メイエルホリドのその後の演劇への影響は甚大なものがあるが、ここではそれらを整理しながら現代演劇とどのように繋がり、また断絶しているのか様々な視点から考えたい。
■ヴィオレッタ・ブラジニコワ
「20世紀初頭ロシア・ソヴィエト演劇の身体表現における歌舞伎的舞台構成要素」
独自の歴史と源泉および影響を持つ歌舞伎とメイエルホリドの自立した演出作品という、一見したところ極めて異なる二つの演劇世界を扱い、二つの演劇が用いた舞台構成資源の持つ類似性を明らかにする。メイエルホリドはいわゆる「第四の壁」の破壊を強く主張するが、これは20世紀においてもっとも重要な演劇的資源であり、同時代や後続の演出家に受け継がれていった。この演劇的資源について論じたい。
■上田洋子「メイエルホリドと演劇の構成主義」
『堂々たるコキュ』の舞台写真を同時代の他の芝居の写真群と並べてみると、その斬新さにあらためて驚嘆させられる。メドゥネツキーとステンベルグ兄弟が発案し、メイエルホリドが温め、ポポワが具現化したシンプルかつ演技を際立たせるセットを、構成主義者たちは美的観念が完全に排除されていないと非難した。もっとも、構成主義者たちが言う「有用性」は、俳優と実生活上の人間においては異なっていることを忘れてはならない。メイエルホリドが構成主義をいかに演劇的に変質させていったのか、改めて考察を試みる。
■伊藤愉「メイエルホリド劇場における音楽的コンポジションと俳優の演技」
1926年に上演された『査察官』は、これまでの舞台機構を露呈するような演出とはことなり、1930年代を模した調度品が舞台上に並んでいた。演出家はリアリズムに移行したかのようにも見えた。しかし、それは「音楽的リアリズム」という明確な意図に基づくもので、このとき芝居は音楽的に構成され、俳優の演技もまたその原理に組み込まれていたのである。これまで手法が新たな形で展開したものとして「音楽的リアリズム」を読み解いてみたい。