公募研究6「撮影所時代を中心とする日本映画史における《演劇的要素》の再考―産業間コラボレーションとメディア複合体の形成をめぐる調査・検証・解釈―」

    研究代表者 志村三代子(早稲田大学演劇博物館客員研究員)
    研究分担者 紙屋牧子(東京造形大学非常勤講師)
            坂尻昌平(日本大学芸術学部非常勤講師)
            中野正昭(早稲田大学演劇博物館客員研究員)
            洪善英(翰林大学日本学研究所専任研究員)

 ○研究成果概要(平成21年度)
 本研究課題の目的は、主に撮影所時代の日本映画における演劇界とのコラボレーションに関する調査、検証、解釈を中心に、映画における〈演劇的要素〉と、映画における〈映画的要素〉の包摂、活用、翻案、もしくは切り離しの実践の有りようについて検証し、再考することを目指すものであった。具体的には、「越境するステージとスクリーン」という総合テーマで、外部の研究者をコメンテーターとして招聘し、分担者がそれぞれ「1915年の芸術座の満鮮巡業」、「占領期における《パンパン》(娼婦)の表象:『肉体の門』を中心に」、「戦時期~占領期における《芸道》映画について」というテーマで研究発表を行った。そこから改めて確認されたことは、研究者が、映画研究・演劇研究といった縦軸の研究では得ることができない横断的な視座を獲得する必要性である。「戦時期~占領期における《芸道》映画について」を例にあげると、演劇においては歌舞伎、新派、新劇といった団体がそれぞれの力関係にしたがって独自の活動をしているのに対し、映画界では、それらがすべて包括されて「芸道もの」と区分され、それぞれの第一人者が映画界に協力することで、独自のジャンルが形成されていくコラボレーションの具体的な事例を、演劇・映画双方の研究者の意見交換によって検証することが可能となったからである。この成果を踏まえて、紙屋牧子、鷲谷花(研究協力者)の二名が韓国日本学会で研究発表を行った。


○研究業績

・論文
志村三代子 『戦前の日本映画界における文学者・菊池寛の役割』 早稲田大学文学学術院 2010/2
紙屋牧子 「マキノ眞三ともうひとつの「マキノ映画」」 『NFCニューズレター』第84号 9頁 2009
中野正昭 「乱歩とラン子──江戸川乱歩にみるレヴュー・ガールへの憧憬と拒絶──」 『文芸研究』第111号 55~79頁 2010/3
中野正昭 「国民演劇選奨と置き去りにされた国策劇──古川緑波一座を中心に──」 『演劇論集』第49号 75~98頁 2009/10
洪善英 「芸術座の満鮮巡業とその文化的影響―島村抱月の新劇論と関連して―」 『翰林日本学』 15号 169~192頁 2010/1
洪善英 「京城の日本人劇場変遷史―植民地都市の文化と劇場―」 『日本文化学報』43号 282~305頁 2009/9
・著書
志村三代子 『淡島千景 女優というプリズム』 青弓社 2009/4
坂尻昌平 『淡島千景 女優というプリズム』 青弓社 2009/4
中野正昭 『板垣鷹穂の世界』(仮題) 森話社 2010/9(予定)
中野正昭 「岸田國士の世界」 『モダン都市のレーゼ・ドラマ─岸田國士の一幕物の読まれ方─』 261~280頁 2010/3
・学術講演
坂尻昌平 「アナタハン島事件の映画的系譜」 アテネフランセ文化センター 2010/2
・学会発表
志村三代子 「Japanese Women’s Films and Cosmetic Advertisement in the 1930s」 城西国際大学紀尾井町キャンパス 2009/5
志村三代子 「蝶々夫人の表象 ――Madame Butterfly(1932)を事例として」 早稲田大学 2009/11
志村三代子 「Military songs in Japanese national policy films during World War Ⅱ」 WESTIN BONAVENTURE  2010/3
紙屋牧子 「占領期における《パンパン》(娼婦)の表象:『肉体の門』を中心に(公開研究発表会「越境するステージとスクリーン」)」 早稲田大学 2010/1
紙屋牧子 「占領期日本映画における〈パンパン〉(娼婦)の表象(韓国日本学会第80回国際学術大会)」 韓国・漢陽大学校 2010/2
・その他
洪善英 『日本雑誌『モダン日本』と朝鮮1939―完訳『モダン日本』朝鮮版1939年―』(訳書) 語文学社 2009/3