供申一先都へ立帰るを跡につゞいて数百人遁さぬやらぬと追かけたり手疵は負共氣は
鉄石の武里が死物狂ひと思ひのやいば爰に三人かしこに七人はらり〱と〽なぎ倒し其身
は秋の花紅葉敵は木の葉の其跡へ追手の大将猪熊大之進おくればせにかけ来りヤア死
損いめいづくへ行先比嵯峨の奥にて取逃し主人朝方公の御機嫌以ての外すご〱館へ
帰られず庵坊主めに白状させ付廻したる此海道サア惟盛の御臺若君を渡し腹かつ
さばけと呼はつたり手負は流るゝ血汐ぐつと一飲息をつぎ主馬の判官が躮小金吾武
里息有内はいつかな〱ヲ其一言が絶命と踊上つて討太刀をてうど受留はつしとはね
ひらりと見せてはくるりとはづし手練を盡せど流石は手負内侍若君あぶ〱ひや〱
小石を拾ひ砂打付及び越なる加勢も念力手強く見ゆる猪熊が眼に入て目
当はくらやみ透間に切込だんびらに眉間をわられて頭転倒乗かゝるを下よりも突
鋒は豁骨金吾ものつけにそり返るあなたが起れば石礫猪熊切れ小金吾も俱に
深手の四苦八苦修羅の街ぞ危けれ忠義の天成小金吾がなんなく相手を取て押へ
ぐつと突込とゞめの刀サア仕負し嬉しやと思ふ心のたるみにやうんと其身も倒れ伏ノウ
悲しやと内侍若君いたはり拘抱起しコレのふ金吾〱氣をはつきりと持てたもそなたが死